もうそうびと

2023.11.14

日常にちいさな幸せを「niko ちいさな焼き菓子屋」|平井 真由美さん

今回ご紹介する「もうそうびと」は、熊谷星川通りに2023年2月にオープンした「niko ちいさな焼き菓子屋」の店主、平井 真由美さん。

みなさん初めまして、今回「もうそうびと」の記事を担当させていただくmonoと申します。ひっそりとライター業やその他諸々営んでおります。妄想不動産のライターという魅力あふれる機会をもらえた幸せに感謝しつつ、熊谷に住んでいる人やお店、お仕事などの凄まじい「吸引力」をお伝えできたら幸いです。熊谷に住んでいるこの人に会いたいな!と思ってもらえるように紹介できたらと思ったりもしております。

星川通りを散歩していると、つい入りたくなってしまう店構え…そんなナチュラルな癒し空間を演出しているのが、焼き菓子屋とレンタルボックスが融合したお店「2co1」です。「niko ちいさな焼き菓子屋」さんはこのお店の「半分」で営業しています。

空き家から生まれた、新しいカタチのお店

今回紹介する「niko ちいさな焼き菓子屋」ができるまでには、星川通りが抱えている「空き家問題」が関わってきます。店主の平井さんと、熊谷の「空き家問題」「シャッター街問題」に取り組んできた建築士、合同会社ハクワークス代表社員 白田 和裕さんが出会ったことで生まれたのが、小さな複合施設である「2co1」であり「niko ちいさな焼き菓子屋」なのです。

夢みる料理人

もともと平井さんはイタリアンレストランで働きながら、いつかご自身のお店を持つことを目標にしていたそう。でも、具体的にどんなお店を開きたいのかがわからない日々…。飲食店勤務ということもあり、一通りの料理やお菓子、販売に至るまで勉強しながらも悩んでいたそうです。お店を持つために自分の「売り」になるものを作ろうと、先輩や料理長に頭を下げてまで教えを乞い、習得してしまうほどの熱意だったのだとか。

そんな日々を過ごす中で、ご友人から「焼き菓子のセット」を頼まれました。しかも、料金も支払うのでぜひ自由に作って欲しいというお願いです。決められた時間の中でプレゼントする方の好みも聞きながら懸命に取り組み、ご友人には喜んでもらえる結果になりました。

ですが、平井さんの中には「もっとできたのではないか?」という後悔のような思いが残ってしまいます。もっと美味しいお菓子にできたのではないか?内容をもっと練ることができたのではないか?そんな思いに駆られたことをきっかけに、こっそり「お菓子作り」をさらに勉強し始めます。そんな中で出会ったのが「米粉」という存在でした。

米粉とマフィン

米粉という存在を知った平井さんに、もう一度チャンスが訪れます。職場の同僚にお菓子セットをプレゼントする機会が訪れたのです。同僚のお子さんが「小麦アレルギー」であることを知った平井さんは「米粉」で焼き菓子セットを作ることを思い付きました。

米粉のお菓子を知るために、米粉のパンやお菓子を求めて販売店を廻ります。ですが、当時は米粉を使った商品はメジャーではなかったため、広告や宣伝されていても店舗の片隅に2〜3種類あるだけという状況。米粉のみを使ったお店は近隣にはなかったのです。

米粉のお菓子に狙いを定めて試作を重ねながら全力で取り組んだ甲斐もあり、この時にプレゼントしたお菓子セットはとても喜んでもらえたそうです。アレルギーに左右されず「家族全員で同じお菓子を食べられる」という幸せを提供できた瞬間でした。

この出来事がきっかけで「米粉」を自分の売りにしていこうという思いが固まったそうです。

同時に、お菓子屋をするなら「マフィン屋」がいいとも思ったのだとか。何故なのですか、と問いかけると平井さんは素敵な笑顔で「マフィン屋さんが近くにないからです」と答えてくれました。その答えに思わず私も納得してしまいました。

美味しいマフィン専門店…言われてみれば星川周辺では思い当たりませんよね。しかも「米粉」を使用したマフィン屋さんです。目の付け所が違います。「誰かが喜ぶことをしたかった」柔らかくサラリと言える平井さんは、やっぱり素敵な女性です。

そして、自分のお店を持つために悩みつづけた平井さんの「妄想」が「現実」になっていきます。

デンクマル・白田さんとの出合い

お菓子屋として店舗を構える前に、宣伝効果を狙いネットショップ開設を目指した平井さんに立ちはだかった次の敵は「場所」。商品にするお菓子を製造する場所がなかったのです。

ネットショップの回想を膨らませながら製造場所を探す日々、ご実家の庭に小屋を建てる案は残念ながらご両親に却下されてしまったそうです。シュンとしながらも場所探しの旅は続きます。そして、出会ったのがシェアキッチン「デンクマル」でした。

シェアキッチン「デンクマル」は、一級建築士である白田さんが空き家をリノベーションしたレンタルスペースです。もともとは2階建ての民家でしたが、1階は菓子製造許可を取ったレンタルキッチンとレンタルスペース、2階はレンタルオフィスを月単位で貸している複合施設。

1つの家を丸っとリノベーションし「何かをはじめたい人の一歩を応援する場所」として作られました。

ネットでデンクマルの情報を知った平井さんはすぐに行動を開始。見学の予約を入れて、ネットショップを開設し、デンクマルでの製造を始めます。思いついたら即行動のバイタリティがすごいですよね。

ネットショップ開設後、平井さんの作る米粉のマフィンは大好評。開設する前はお客様の厳しい意見も覚悟していたそうですが、蓋を開けてみたら約7〜8割のお客様がリピーターになってくださったのだそうです。それだけ平井さんの米粉のマフィンが「もう一度食べたい味」なのでしょう。

この頃の平井さんの生活は、完全に「二足の草鞋を履く」状態。本業であるイタリアンレストランのオーナーには、業務に手を抜かないことを約束しダブルワークを認めてもらったそうです。

休日にデンクマルを約6時間借りてネットショップのマフィンを焼き、ラッピング、発送までこなす日々。お話をお伺いしながら、並の体力では持たないだろうと思いました。この活動と同時に白田さんにデザイナーを紹介してもらい、あの素敵な「プレゼントを届けるクマさん」のロゴも完成します。

平井さんはネットショップとレストラン勤務を兼業していた約一年前を振り返り、充実した日々だったといいます。ネットショップで自分のお店を持ちマフィンを売っていることが自信になり、本業にも本気で取り組むことができたのだとか。ですが、心はやる気に満ちて充実していても、体力には限界があるもの…。

身体の疲れが頂点になるころに、白田さんから空き家を店舗にするという話を聞いたそうです。チャンスって求めてる人、努力している人の前には、タイミングよく現れるものなのかもしれませんね。

平井さんにインタビューする中で、白田さんのお名前は随所に登場します。白田さんに出会えたこと、一緒に仕事をすることが平井さんにとって大きなターニングポイントになっているのかもしれません。

ちいさな複合店「2co1」

白田さんは星川通りの空き家をリノベーションして、10年後、20年後に人の集う場所に、次世代が選択肢の一つとして地元・熊谷も選べるようにと活動を続けていらっしゃいます。発想が素晴らしい…

そんな素晴らしい発想の持ち主、白田さんの事業の一つが「2co1」でした。空き店舗をリノベーションし、改装費を抑えるためにDIYなどもしながら作り上げた新しい場所です。レンタルボックスの「りんご箱」10個と、お菓子屋さんを半々として家賃を抑えた「空き店舗」を「開き店舗」にする活動の一つとして企画されました。

中央に小川の流れる素敵なロケーションの星川通りは、熊谷駅から徒歩約10分ほどの場所に位置しています。この通りの歴史は、なんと鎌倉時代まで遡れるのだとか!歴史がありますね。そんな星川通りも時代が流れるに従って、今は空き店舗やシャッターが多く見られる通りになってしまったようです。

白田さんに星川通りの空き店舗改装計画「2co1」の企画を聞いた平井さんは、これまたすぐに行動開始。白田さんにお願いして改装前の店舗の内覧を希望したそうです。案内してもらったガラス張りの空っぽの店舗…お店の中から外に広がる景色を見た瞬間、この場所に決めたそうです。

森の中にあるお菓子屋さん

お店を開くと決めた時に不安に思ったことはないですか?との質問に、全くなかったと答える平井さん。平井さんが白田さんにお伝えした作りたい店舗イメージは「森の中のお菓子屋さん」。この難しいオーダーに、白田さんは二つ返事で了承してくれたそうです。そして実現してしまいます。

平井さんと白田さんの出会いの場所でもあるデンクマルから切り出した木を加工し、ドライフラワー作家さんにお願いして理想のシンボルツリーを作り出し、サイズをピッタリ合わせて窓付きのカウンターを設置。森の中のお菓子屋さんが完成してしまいました。すごい…

改装時には「DIYワークショップ」も開催。大好評だったそうです。

オープンしてからのお客様の声

お店を開く前に感じなかった不安は、オープンしてから襲ってきたそうです。1人で全てを担っていくということ、お客様は来てくれるのか、次に繋がるのか、その全てを少しづつ実感として感じ始めた時に救ってくれたのは「お客様」の声でした。

否定的な意見も覚悟していた時に届いたお客様の声は…

「こういうお店が欲しかった」

「家族で食べられるケーキは初めてです」

「食べられるお菓子をありがとうございます」

などなど、思わず涙が出るような沢山の感謝の言葉だったのです。そもそもアレルギーに特化したお菓子を作ろうとは思ってなかった平井さん。米粉だけでなくこだわりの素材で作っているものの、全ては美味しいマフィンを作るため。意識的には「ちょっと体に良いお菓子」だったとのこと。思わぬ副産物でお客様の心をガッチリとキャッチしてしまったようです。

頑張っている人が、ほっとするお店を作りたかった

1日仕事を頑張って疲れた時に何気なく入ったお店が「癒しの空間」だったら、その瞬間に救われた気持ちになりませんか?そういうものを作れる人になりたかったんです。

その言葉を聞いた時に、何かがストンと落ちてきました。この癒しの空間は、平井さんがいらっしゃるからこそ完成するのでしょう。そして、星川通りを、熊谷という街を思う気持ちや、実際に活動されている白田さんを含めた様々な仲間たちが集まることで、大きな波になって行くのかもしれませんね。

平井さんの次の妄想は「niko ちいさな焼き菓子屋」の名前を全国の人に知ってもらうこと。キッチンカーのような移動車でマフィンを売りながら日本中を回ることも考えているのだそう、バイタリティに溢れているからこその発想ですよね。

全国を回ることになっても、星川通りの「この場所」はずっと続けて行きたいとも語ってくれました。理由は「この場所が好きだから、人も、街も」人との繋がりを何よりも大切にしている平井さんらしい言葉で締めくくりたいと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

最後に…平井さんの米粉マフィンをいただいたのですが、本当に付随なく美味しかったです。ふわふわもちもちのマフィン生地、ほんのり優しく甘い味…リピートしてしまうお客様の気持ちがわかりました。また行きたいお店No. 1!

shop info

niko ちいさな焼き菓子屋

住所:熊谷市星川2丁目11

営業時間:11時から17時

定休日:だいたい月曜日

インスタグラム:@niko_yakigashi