もうそうびと

2021.09.10 空き家を借りた人

熊谷の出会いとビジネスと未来を紡ぐ場所
108 ocha stand | 八木重朝・奈都子さん

今回、ご紹介するのは

熊谷で煎茶のテイクアウト専門店『108 ocha stand』/シェアスペース『トナリノ、』を営む八木重朝さん・奈都子さん夫妻です!まとっている雰囲気がとても柔らかくて、素敵なご夫妻。

あ、名乗り遅れました。はじめまして、ライターのゆいです。色んな巡り合わせがあり、この度妄想不動産のライターを担当することになりました。なんと、人生2度目の熊谷でいきなり取材をさせていただくことになるなんて。熊谷初心者ですが、そんな私だからこそお伝えできる熊谷の人・ものの魅力があるはずだと意気込み、筆をとらせていただきます。最後までどうぞお付き合いくださいませ。

八木さん夫妻が運営する『108 ocha stand』/シェアスペース『トナリノ、』は空き家をリノベーションして生まれ変わった場所です。お二人の手で生まれ変わった空き家で、一体どんなストーリーが生まれているのか、そして、お二人のどんな想いがその背景にあるのかについて、たっぷりと迫っていきます!

 

熊谷って、あったかい

八木さん夫妻が、熊谷で『108 ocha stand』そして『トナリノ、』をはじめたのは今から2年ほど前に遡ります。お二人は、以前は別の場所で建築士として活動していており、その頃から何か「空き家」問題に対して取り組めないかと試行錯誤していました。その後、熊谷にお戻りになり、何かリノベーションできるような案件はないかと探していたところに、現在の大家さんでもある『コッペリア』さんと運命的な出会いをはたします。大家さんと熱心にコミュニケーションをとっていく中で「お茶のカフェをやってみよう!そして、半分をシェアスペースにしよう!」と話がまとまり、手探りの状態ながらもスタートを切ることになります。

「空き家」という社会問題にきちんと向き合える土壌が熊谷にはあり、「空き家」を何とかしたいという情熱にちゃんと応えてくれる人に巡り会うことができた八木さん夫妻は「やっぱり熊谷って、あったかい人が多い」と語ってくれました。

 

 

使う人が主役になるスペース

『108 ocha stand』と『トナリノ、』について、もっと深掘りしてお聞きしました。

まず、お茶スタンド『108 ocha stand』から。こちらのお店は現在、週5日でオープンしています。2021年8月からは、土曜日限定で『きものカフェ紬』というコーヒー屋さんがお茶スタンドのスペースをシェアしています。何でも、熊谷にある着物屋『きものこすぎ』さんとのご縁で出会った、カフェ巡りが大好きな店主さんが一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れているんだとか。

そして、その隣のシェアスペース『トナリノ、』は、もっと変幻自在。何だってできるし、何にでもなれる場所。『トナリノ、』とう名前は、「、」の後に続く言葉を使う人が決めることができるようにとの想いを込めてつけたそうです。トナリノ、カフェでもいいし。トナリノ、ワークショップでもいい。

 

「活用の可能性はまさに無限」

自分の個性、想い、そしてアイデア次第で表情が変わるスペースって、なんだか心が踊りますね!使う人が主役になる『トナリノ、』では、今までどんな主役とその物語が生まれてきたのでしょうか。大切にファイリングされているお店のアルバムを見せていただくと、そこには

・デニム着物の展示販売

・熊谷染のワークショップ

・ガラス小物のワークショップ

・キルト展示案内

・ダンスワークショップ

・トナリノ、コーヒーデイズ

・フルートと整体のイベント

・デニム着物のライブペイント

・酒粕マルシェ

・うつわ展

etc…

 

ここでは書ききれないくらい、たくさんの過去のチラシがおさめられていました。さまざまな方が自分の思い描くままにこのシェアスペースを活用していたんですね。一つひとつのイベントのチラシを、少し懐かしそうに、そして嬉しそうに眺めて、

 

「このイベントはこんな人がこんな想いで企画して、こんなこだわりがあって…」と丁寧に説明してくださる奈都子さんが印象的でした。

次にスペースを利用したいと申し出る人に、今までの事例を紹介できればときちんとファイリングしているそうです。つい先日も、「自分たちでリメイクした服を披露したい」という若い男性4人組がやってきたそう。幼稚園からずっと同級生で、みんなで仲良く服を作っていて、それをぜひ発表したい!という熱い想いをもった彼らのような、予想もしていなかった人たちもこの場所に訪れ始めている、と、とても楽しそうに語っていました。

残念ながら、新型コロナウイルスの影響もあり、まだ彼らの企画は実現できていないそうですが、『トナリノ、』という存在自体が、アウトプット願望がある人たちにとってのチャンスの場になっている事実が何事にも変えがたいなと感じます。

八木さん夫妻も「この場所が人と人との出会いの場になっているのが何より嬉しい」と言います。今まで『トナリノ、』を利用してきた人も、以前の利用者づてに情報を得て、訪れてきた人も多いのだとか。『トナリノ、』が使われた一つひとつの記憶を想い出のアルバムみたいにしっかりと残してくれる八木さん夫妻がいるからこそ、この場所で人のご縁が紡がれていくんだなと思います。

 

スモールビジネスを創りだす

奈都子さんは、牧禎舎の菅井幸子さんと共に行田・熊谷にお住いの方向けに「オシゴト」という講座も主催しています。「まちとつながる・なかまとつながる」がコンセプト。自分の好きなことや得意なことで”ちいさな仕事”をつくり出すことをゴールに、少しずつステップを踏みながら、学んでアクションを起こしていく講座になっているそうです。

計6回の講座を通して、どうすれば、人と地域のつながりでお金や価値が生み出せるか、そしてそれがどうすれば、街の活性化につながっていく良い循環を生み出せるかを皆んなで考えているといいます。

具体的な受講生の目標は、月3万円を稼ぐこと。「低リスクで、とにかくまずはやってみよう」という気持ちを大事にしていると、奈都子さんは語っています。

今は第2期を開催中とのことですが、

地元の食材をを使ったごはん屋さんを営みながら、「体も心も町も元気にしたい・おやつを楽しみつつ食育もしたい」という想いで、地元の食材でミニどら焼きを作る人。

「大好きなこぎん刺しを日々の暮らしに取り入れてほしい」と、卓上ほうきを作る人。

ハギレや古着を取り入れて再び花咲かせる物作りとして、ポーチなどを作る人。

かつての縫製の仕事のスキルを活かして、オリジナルデザインのトートバッグを作る人。

市役所の職員(農政課)として働きながら「地元の野菜を使って、野菜ジュースを作りたい」と企画している人

ハンディキャップを持った人でも気軽にコミュニケーションをとれる場を作りたいと燃えている人

自身が小麦アレルギーであることから、「米粉を使ったレシピを広めたいさらには、食の大切さ・多様さを伝えたい」という想いをもつ人

ボディコンディショニングの仕事をしながら、「体の癒しと音楽の癒しとアロマの癒し」の3つを同時に提供できる場をつくろうと挑戦中の人

などなど(またしても書ききれない…)

さまざまな方向性で自分のやりたいことを膨らませていく卒業生や受講生がいるそうです。聞いているだけで受講生のエネルギー感がヒシヒシと伝わってきますね。

 

受講していく中で、人それぞれ迷ったりすることももちろんあるそうですが、同じ受講生の内で話し合っていく中で不思議と解決していくんだとか。

「オシゴト」を通して、自分で”ちいさな経済”をつくり出した人がどんどん有機的につながっていき、やがてそれが、地域の活性化につながっていくんだろうなと思います。

卒業生の中には、実際に、新たなビジネスをパッケージ化することに成功した人もいるみたいです。今までの受講生は、「何をやりたいか」が明確に決まっていた人が多かったようですが、「何をしたいか具体的に定まってない」という方でも大歓迎とのことです。

一歩踏み出してみたい、新しいチャレンジをしてみたいという方は、ぜひ参加されてみてはいかがでしょうか?人生をちょっと豊かにするための一つのきっかけを与えてくれる講座だと思います。

もうそうびと達の次の“もうそう”

「このスペースが、どういう風に使ってもらってくれるか、今後も楽しみ」と語る八木さん夫妻。

最近のビッグニュースは、テラスの利用許可が国土交通省から正式に下り、お店の前のスペースの利用が可能になったことだそうです!ちなみに、国道沿いのテラスの利用許可が下りたのは、埼玉県で第一号なんだとか!

座ってくれる人が増えたらいいな…

他のお店も連携とも連携して、このエリアを盛り上げていけたらいいな…

と次なる妄想を膨らませています。

「もちろん、新型コロナウイルスの影響で、これからの社会がどうなっていくか分からない。新しい社会の仕組みができたら、それに合った場の作り方を模索していきたい。自分たちのお店が、何か地域活性のきっかけになればと思っている。」

たくさんの方との関係性を丁寧につむぎながら、お店を営んでいる八木さん夫妻の力強く、そして温かい言葉が、熊谷の明るい未来を灯していると思いました。

 

初取材を終えて

今まで縁もゆかりもなかった熊谷。自分の持っているものを発揮したいという人や、何か面白いことをしてやろうと企んでいる人は思っていた以上に多いんだなと感じました。

そして、そういった前のめりな人たちが次々と生まれているのは、輝ける場所や機会を提供している八木さん夫妻のような存在があるからこそ。

 

しかも、「空き家」から未来が生まれているのが面白い!次は「空き家」からどんなあたらしい出会いや、ビジネスがつながっていくのかそして、「空き家」とそれに向き合う人たちが、熊谷(もしかすると、もっと広い地域)で、どのような良い循環を生み出していくのか。これからも楽しみに追いかけていきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

108お茶スタンド

住所:熊谷市鎌倉町108

営業時間:10時から17時

定休日:月曜日ほか不定休

インスタグラム:@tonarino108